AI技術を活用したレーザ加工装置の特許事例について

AI技術を活用したレーザ加工装置の特許事例について

AI技術の急速な進化は、様々な業界でイノベーションの波を起こしています。特に、製造業におけるプロセスの自動化や最適化は、企業の生産性向上に大きな貢献をしています。このような背景の中、AI技術を活用した製品やサービスの開発は、知的財産戦略の核心に位置づけられるべきです。

今回は、特許庁が公表した「AIを用いたレーザ加工装置」に関する特許出願の事例を基に、特許戦略の重要性について考察します。

AI技術を用いたシステム化の特許出願

下記は、特許庁が公表した「人間が行っている業務の人工知能を用いたシステム化」に関する請求項の事例です。
※ 請求項1と請求項2は下線部において相違します。

【請求項1】※進歩性が否定される事例
・レーザ光を被加工物に照射して溶接を行うレーザ加工装置であって、
・レーザ加工に関連する複数の加工パラメータに基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御部と、
・前記レーザ光の照射によって前記被加工物から発生する反射光のうち、あらかじめ定めた波長帯域の光強度を光強度信号として検出する光強度検出部と、
・前記光強度信号の時系列信号から得られる平均値を抽出する平均値抽出部と、
入力データを前記平均値とし、出力データを前記複数の加工パラメータの調整量として、前記入力データと前記出力データの過去の実績値を教師データとして用いた学習モデルの機械学習処理を行う機械学習部と、
・前記機械学習部における機械学習処理により得られた学習済みモデルに対して、前記入力データを入力し、前記出力データである前記複数の加工パラメータの調整量を出力し、前記制御部に前記複数の加工パラメータの調整量を入力する加工パラメータ調整部と、
・を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】※進歩性が肯定される事例
・レーザ光を被加工物に照射して溶接を行うレーザ加工装置であって、
・レーザ加工に関連する複数の加工パラメータに基づいて前記レーザ加工装置を制御する制御部と、
・前記レーザ光の照射によって前記被加工物から発生する反射光のうち、あらかじめ定めた波長帯域の光強度を光強度信号として検出する光強度検出部と、
・前記光強度信号の時系列信号から得られる平均値を抽出する平均値抽出部と、
レーザ発振器の累積使用時間を測定する累積使用時間測定部と、
入力データを前記平均値と前記レーザ発振器の累積使用時間とし、出力データを前記複数の加工パラメータの調整量として、前記入力データと前記出力データの過去の実績値を教師データとして用いた学習モデルの機械学習処理を行う機械学習部と、
・前記機械学習部における機械学習処理により得られた学習済みモデルに対して、前記入力データを入力し、前記出力データである前記複数の加工パラメータの調整量を出力し、前記制御部に前記複数の加工パラメータの調整量を入力する加工パラメータ調整部と、
・を備えることを特徴とするレーザ加工装置。

請求項1について想定される特許庁の進歩性判断(進歩性否定)

【従来技術についての特許庁の視点】
レーザ加工の技術分野において、オペレータが、光強度信号の時系列信号から得られる平均値に基づき、入力すべき前記複数の加工パラメータの調整量を判断し、当該複数の加工パラメータの調整量を制御部に入力することは、従来から知られていたものと考えられます。

【AIを代替手段とすることについての特許庁の考え方】
機械加工一般を含む多くの技術分野において、人間が行っている業務をシステム化し、コンピュータにより実現することで効率化を図ることは、当業者が通常考慮する自明な課題であり、上記のような従来技術においても考慮されるものと考えられます。
また、情報処理の技術分野において、人間が行っている業務を効率化するために、人間が行う判断について機械学習された学習済みモデルを代替手段とすることは慣用されているものと考えられます。。

【想定される特許庁の進歩性評価(進歩性否定)】
そうすると、上記の従来技術において、人間が行っている業務をシステム化し、コンピュータにより実現することで効率化を図るという課題を解決すべく、当該課題の解決手段である「人間が行う判断を機械学習された学習済みモデルによって代替すること」という慣用技術を上記の従来技術に適用して、請求項1の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たものである(すなわち進歩性が無い)、との結論に至るものと考えられます。

請求項2について想定される特許庁の進歩性判断(進歩性肯定)

【請求項2と従来技術の違い】
請求項2は、
・レーザ加工装置が、レーザ発振器の累積使用時間を測定する累積使用時間測定部を備え、
・入力データにレーザ発振器の累積使用時間を含みます。
これらの特徴を開示した従来技術は無いと考えられます。

【想定される特許庁の進歩性評価(進歩性肯定)】
請求項2では、上記の新規な構成により、複数の加工パラメータの調整量の推定精度を大幅に向上できるという有利な効果を奏するものであり、また、従来技術に慣用技術を適用する際に行い得る設計変更ということはできないと考えられます。したがって、請求項2に係る発明は進歩性を有する、との結論に至るものと考えられます。

AI関連技術に対する特許庁の考え方(進歩性評価)の分析

まず、請求項1では、レーザ加工装置の制御にAIを用いることで加工パラメータの調整を自動化することが提案されています。しかし、このようなAIの使用は、従来技術においても人間の業務をシステム化し、効率化を図る自明な課題と考えられがちです。すなわち、請求項1が提案するAIの活用方法は、既存技術を踏襲したものであり、特許法上の進歩性が否定される理由となります。

進歩性が否定される主な理由は、提案された技術が当業者にとって明らかな改良であり、特に新しい問題解決手段を提供していないことにあります。つまり、請求項1で示されるAIの活用は、従来から知られている加工パラメータの自動調整という概念を単にAI技術に適用したものであるため、特許としての進歩性が認められないのです

一方で、請求項2では、レーザ加工装置におけるAIの活用方法に新たな要素が加わっています。具体的には、レーザ発振器の累積使用時間を考慮することで、加工パラメータの調整をより精密に行うことが可能になります。この累積使用時間を加味することで、装置の状態変化を反映した調整が可能となり、加工品質の一貫性と精度を向上させることができます。

請求項2の進歩性が肯定される理由は、従来技術では考慮されていなかったレーザ発振器の累積使用時間という新しい要素を加えることで、加工パラメータの推定精度を大幅に向上させる効果が得られる点にあります。この点は、単に既存技術にAIを適用したに過ぎない請求項1とは異なり、特定の問題を解決するための新規な技術提案として評価されます

結論

特許出願において進歩性が認められるためには、単に既存の技術や方法にAIを適用するだけでなく、そのAIの活用によって解決される具体的な技術的課題や新しい効果が明確でなければなりません。請求項2が進歩性を認められたのは、レーザ発振器の累積使用時間を考慮することで、加工パラメータの調整精度を大幅に向上させるという新たな技術的効果を提供したためです。このような視点から、AI技術を特許戦略に組み込む際は、その技術が既存の問題解決手段とどのように異なるのか、またどのような新しい価値を提供するのかを明確にすることが重要です。

富田国際特許事務所 弁理士 富田款

 

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Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

【富田弁理士への問い合わせ先】
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
富田国際特許事務所
TEL:03-6205-4272     FAX: 03-3508-2095
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【代表者】弁理士 富田 款

 

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