AI技術関連の特許出願におけるサポート要件の理解

AI技術関連の特許出願におけるサポート要件の理解

AI技術は日進月歩であり、特許法の枠組み内でその進化を適切に保護することは重要です。このブログでは、特許庁により公表されたAI技術に関連する特許出願の事例をもとに、AI技術関連の特許出願でサポート要件違反を避けるための注意点について詳しく解説します。

下記は、特許庁が公表した「教師データ用画像生成方法」に関する請求項の事例です。

■サポート要件違反に該当する事例
【請求項1】
・画像生成装置が、人体を含む放射線画像、および、手術用具を表す手術用具画像を取得するステップと、
・前記放射線画像に前記手術用具画像を合成することにより、合成画像を生成するステップと
・を実行する合成画像生成方法。
■サポート要件違反に該当する事例
【請求項2】
・対象画像が入力されると該対象画像における手術用具の領域を判別する判別器を学習するための教師データ用画像生成方法であって、
・教師データ用画像生成装置が、放射線画像である第1の画像、および第2の画像を取得するステップと、
・前記第1の画像に前記第2の画像を合成することにより、前記対象画像に対応する教師データ用画像を生成するステップと
・を実行する教師データ用画像生成方法。
■サポート要件を満たす事例
【請求項3】
・対象画像が入力されると該対象画像における手術用具の領域を判別する判別器を学習するための教師データ用画像生成方法であって、
・教師データ用画像生成装置が、人体を含む放射線画像、および、手術用具を表す手術用具画像を取得するステップと、
・前記放射線画像に前記手術用具画像を合成することにより、前記対象画像に対応する教師データ用画像を生成するステップと
・を実行する教師データ用画像生成方法。

サポート要件とは

サポート要件は、特許出願された発明が特許明細書によって十分に開示されているかを判断する基準です。具体的には、請求項に記載された発明の範囲が、明細書全体の記載によって支持されている必要があります。この要件は、発明が公衆に対して十分に理解され、再現可能であることを保証するために重要です。

請求項1と2がサポート要件違反に該当する理由

【請求項1の分析】
請求項1では、人体を含む放射線画像と手術用具を表す手術用具画像を合成する合成画像生成方法が記載されています。しかし、この請求項では「機械学習の対象となるAI」が特定されておらず、どのようなAIモデルが学習に利用されるのかが不明確です。このため、発明の課題を解決する手段が十分に反映されていないと判断され、サポート要件違反となります。この特許出願に係る発明の課題は、「手術用具の領域を判別する判別器を効果的に学習させるための教師データ用画像を簡単に作成すること」にありますが、この請求項ではその手段が具体的に示されていないのです。

【請求項2の分析】
請求項2では、特定のAIモデルの学習に用いる教師データ用画像の生成方法が記載されていますが、合成される画像の内容が具体的には記載されていません。つまり、どのような画像が教師データとして生成されるのかが不明であり、発明が解決しようとする課題に対する手段が明確でないため、こちらもサポート要件違反と判断されます。

請求項3がサポート要件を満たす理由

請求項3では、教師データ用画像の生成において、人体を含む放射線画像と手術用具を表す手術用具画像を合成する方法が具体的に記載されています。また、この教師データ用画像が「機械学習に係る画像の内容」及び「機械学習の対象となるAI」の両方に関して特定されており、発明の課題を解決するための手段が明確に示されています。このため、請求項3はサポート要件違反に該当しないと判断されることになります。

AI技術関連の特許出願においてサポート要件違反を避けるための注意点

AI技術に関連する特許出願では、以下の点に注意することが重要です。

【発明の課題と解決手段の明確な記載】
発明の背景となる課題を明確にし、それを解決するための具体的な手段を請求項に反映させることが必要です。

【技術的詳細の充分な開示】
特にAI技術においては、どのようなデータをどのように利用し、どのAIモデルで学習を行うのかといった技術的な詳細を具体的に記述することがサポート要件を満たすために不可欠です。

【適用範囲の適切な限定】
あまりに広範な発明の範囲を主張すると、サポート要件違反のリスクが高まります。特許を求める具体的な技術範囲を適切に限定し、その範囲内で発明が機能することを示す必要があります。

結論

AI技術の特許出願においては、発明の詳細な説明がサポート要件を満たすために非常に重要です。出願人は、発明の課題を明確にし、その解決手段を具体的に記載することによって、サポート要件違反を避けることができます。また、技術的な詳細の充分な開示は、AI技術の特許出願において特に重要です。これにより、技術の進歩を促進し、AI分野の発展に寄与することができるでしょう。

富田国際特許事務所 弁理士 富田款

 

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Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

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〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
富田国際特許事務所
TEL:03-6205-4272     FAX: 03-3508-2095
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【代表者】弁理士 富田 款

 

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