発注書に商標を入れていても「使用」の証明にならず ― 知財高裁が不使用取消しの審決を維持(令和8年9月17日判決)

結論

登録したまま、しばらく使っていない商標はありませんか。

知財高裁は、商品の需要者ではない製造委託先1社に、商標入りの発注書を2回渡しただけでは、商標法でいう「取引書類の頒布」にあたらないと判断しました。商標権者は「実際に化粧品500個を作らせ、費用もかけた」と主張しましたが、結論は変わりませんでした。

今回の分かれ目は、お金をかけたかどうかではありません。発注書を渡したことが、世の中の人(公衆)が見られる状態に置く程度の流通といえるかでした。

そもそも「不使用取消審判」とは

登録商標が、指定した商品やサービスについて、日本で継続して3年以上、商標権者にも使用を許された人(使用権者)にも使われていないと、だれでも特許庁に、その商品・サービスについて登録の取消しを求めることができます。これが「不使用取消審判」です。

請求を受けた商標権者は、原則として、請求が登録された日より前の3年以内に、取消しを求められた商品・サービスのどれかについて、自社や使用権者が日本で登録商標を使ったことを証明しなければなりません。証明できなければ、登録は取り消されます(使っていないことに正当な理由があると明らかにした場合は別です)。

商標は、使うことで信用がたまっていく権利です。使われていない商標を、いつまでも独り占めさせない仕組みといえます。

事件のあらまし

商標 登録商標「Revi」と「レビ」の上下二段書き(登録第5749212号)の商標見本「Revi」と「レビ」の上下二段書き(登録第5749212号。図は J-PlatPat の商標見本)
商品 化粧品・せっけん類・香料(第3類)、サプリメント(第5類)
取消しの請求 2025年7月1日(請求の登録は7月14日)
証明が必要な期間 2022年7月14日〜2025年7月13日
商標権者の主な証拠 2025年3月5日付けと3月31日付けの発注書2通(製造委託先1社あて。商標入り)
特許庁 2026年3月24日、登録を取り消す審決
知財高裁 2026年9月17日、商標権者の請求を棄却(審決を維持)
時系列:出願・登録から、使用を証明すべき3年間、発注書2通、取消請求の登録、特許庁の審決、知財高裁の判決まで
知財高裁 令和8年9月17日判決をもとに作成した模式図

商標権者の言い分は、次のとおりです。

  • 発注書は、商標法でいう「取引書類」にあたる。それを製造委託先に渡したのは「頒布」(配ること)だ。
  • 製造委託先からの信用も、商標で守られるべきだ。
  • 化粧品500個を作らせ、納品も受けた。費用と手間をかけており、名ばかりの使用ではない。

これに対し請求人は、発注書は商品の取引者や購入者に向けられたものではなく、広告としての働きもしていない、と反論しました。取消しを逃れるための名ばかりの使用は「使用」にあたらない、とも主張しています。

裁判所の判断:「頒布」とは、公衆が見られる状態に置く程度に流通させること

商標法2条3項8号は、商標を付けた広告・価格表・取引書類を展示したり頒布したりすること、それらの情報をインターネットなどで提供することも、商標の「使用」に含めています。商品が出回る前の宣伝でも、商標に信用がたまっていくからです。

裁判所は、この「頒布」の意味を、次のように示しました。

同号にいう「広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して」「頒布」するとは、標章を付した広告等を、公衆が閲覧可能な状態に置く程度に流通させることを意味すると解するのが相当である。

さらに裁判所は、この号にあたる使用というには、広告などに商標を付けて流通させるのに匹敵する程度の実質が必要だと説明し、今回の発注書について次のように判断しました。

商品の需要者ではない製造委託先1社のみに宛てた発注書を2回交付したことのみをもっては、そのような実質を有しているとはいえない。

黄=判断の中心となる基準と事実(引用中の強調は筆者)

「費用をかけた」という言い分についても、現に製造を委託して費用を支出していたとしても、発注書を渡したことが「頒布」にあたらない点は変わらない、としました。

6月ごろに「REVI SHAKE LOTION 150ml」と書いた発注書を渡した、という主張もありました。しかし、実際に渡されたかは明らかでなく、渡されていたとしても同じ性質の書類だ、とされています。

比較図:製造委託先1社への発注書の交付は頒布にあたらない。チラシ・カタログなどを販売先・お客さんに配るのが頒布の典型
知財高裁 令和8年9月17日判決をもとに作成した模式図(右は条文が想定する典型例)

ここがポイント

  1. 今回の発注書の交付だけでは、「取引書類の頒布」と認められなかった。製造委託先1社に2回渡しただけでは、公衆が見られる状態に置く程度に流通させたとはいえない、と判断されました。
  2. 「お金をかけた」は決め手にならなかった。製造に費用をかけていても、商品の需要者ではない製造委託先1社への2回の交付では、「頒布」にあたらないという判断は変わりませんでした。
  3. 判断されていない点もある。発注書がそもそも「取引書類」にあたるか、名ばかりの使用だったか、について裁判所は判断していません。商品や包装に商標を付けるなど、ほかの形の使用についての判決でもありません。また、この判決が確定したかは確認できていません。

眠っている登録商標を守るために、今日からできること

  • 登録から3年以上たつ商標は、年に1回、「日本で使っている証拠」があるかを点検する。一つの取消請求では、請求の対象になった商品のどれか一つについて使用を証明できれば、その請求による取消しは免れます。ただし、使っていない商品だけを対象に、別の取消請求を受けることはあります。
  • 証拠は「商標・商品・日付・使った人・日本での使用」がわかる形で残す。たとえば、取引先への請求書や納品書、チラシやカタログ、販売ページ(URL・掲載内容・保存日がわかる形で保存)、店頭の商品の写真(撮影日・場所を記録)などです。保存日や写真だけで、使った時期や使った人まで十分に証明できるとは限らないので、受注記録や納品書なども組み合わせて残しましょう。
  • 発注書・社内資料・デザインのデータだけで足りると考えない。ほかの使用を裏づける材料にはなり得ますが、今回のように、それだけでは足りないと判断されることがあります。
  • 販売店や関連会社などに商標の使用を許すときは、許した時期・商品・使い方などを書面に残す。使用権者による使用も、使用の証明に使えます。ただし、販売店・関連会社というだけで、使用権者になるわけではありません。
  • 「駆け込み使用」は数えられないことがある。請求の3か月前から請求の登録日までの使用は、取消しの請求がされることを知った後の使用だと請求人が証明すると、数えられません。ただし、その使用に正当な理由があると商標権者側が明らかにした場合は別です。
  • 商標権を買い取るときは、売り手に直近3年の使用の証拠を出してもらう。権利を譲り受けても、3年の期間はやり直しになりません。

まとめ

商標は、登録すれば終わりではありません。今回の判決は、製造委託先への発注書の交付だけでは、「取引書類の頒布」として使用を証明できない場合があることを示しました。登録商標について、法律上の「使用」にあたる行為があるかを確かめ、その証拠を日付とともに残しておくことが大切です。

出典:知的財産高等裁判所 令和8年9月17日判決(令和8年(行ケ)第10030号 審決取消請求事件。特許庁 取消2025-300537)。判決文(裁判所ウェブサイト、PDF)。引用中の強調(マーカー)は筆者による。

登録商標の使用の証拠の残し方や、不使用取消審判への対応についてのご相談は、お問い合わせフォームよりお寄せください。

Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

【富田弁理士への問い合わせ先】
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
富田国際特許事務所
TEL:03-6205-4272     FAX: 03-3508-2095
※ 富田弁理士へのEMAILはコチラのメールフォームよりお願いいたします。

関連記事