特許出願や特許権などの権利移転と利益相反行為

 

弁理士の富田です。

さて、中小企業のなかでも、比較的小規模の法人では、
企業とその社長個人との間での権利移転が行われることがあります。
ここでいう権利移転とは、特許出願や特許権、商標出願や商標権などの権利の移転です。

例えば、A社の社長甲が、法人であるA社名義の特許出願又は特許権を、甲の個人名義に移転するといった場合が、これに該当します。大人の事情で、こういった権利移転は頻繁に行われています。

このようなパターンの権利移転は、場合によっては『利益相反行為』に該当することになり、
商法265条による取締役会の承認を要することがあります。
その場合、権利の譲渡証書に加えて、取締役会承認書などの提出が必要となるので、その点に注意が必要です。

『利益相反行為』に該当する特許権の移転態様

例えば特許権を、次のように移転する場合には、上述した『利益相反行為』に該当することとなり、
取締役会承認書の提出が必要となります。

① A社(社長は甲)が所有する特許権を → 甲社長個人に有償譲渡する場合
② A社(社長は甲)が所有する特許権を → 甲社長個人に無償譲渡する場合
③ 甲社長が個人所有する特許権を → A社(社長は甲)に有償譲渡する場合

注)甲社長が個人所有する特許権を → A社(社長は甲)に無償譲渡する場合には、
 『利益相反行為』に該当しません。

なお、上記事例では特許権について説明しましたが、商標権、意匠権、実用新案権についても同様の取り扱いとなります。

権利化前の特許出願の移転について

前述した事例では、登録の権利(特許権や商標権など)の移転が、『利益相反行為』に該当する場合があると説明しました。
では、特許出願や商標出願など(すなわち登録の出願)について上記同様の権利移転を行う場合にも、取締役会の承認を要することになるのでしょうか。

結論としては、登録前の移転であれば、『利益相反行為』に該当せず、取締役会の承認は不要となります。
つまり、登録前であれば、譲渡証書1通(取締役会承認書などは不要)で、上記①~③と同様の権利移転を行うことが可能です。

したがって、企業とその社長個人との間での権利移転を行う場合には、
権利の登録前(具体的には、特許権や商標権などの設定登録前)の段階である『出願段階』で
出願人名義変更を行うことが得策といえます。

なお、上記事例では特許出願について説明しましたが、商標出願、意匠出願、実用新案登録出願についても同様の取り扱いとなります。

本日もお読みいただいて有難うございました。
虎ノ門 富田国際特許事務所

 

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Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

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〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
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