ビジネス関連発明、通称『ビジネスモデル特許』。
特許庁での正式名称は『コンピュータ・ソフトウェア関連発明』。
この分野の特許出願の登録率は他の技術分野の発明と比較して低いが、その事実はあまり知られていない。
このシリーズでは、特許庁の審査で拒絶処分となった、数多くの哀れなビジネスモデル特許たちを紹介し、その原因を分析する。
今回はその第1回である。
弁理士の富田です。
本日ご紹介するビジネスモデル特許出願はコレです。
出願人:富士通株式会社、出願日:2002年10月15日、発明の名称:ビジネス方法。
このビジネスモデル特許出願は2008年に最終拒絶処分となりました。
その申請内容の概要は以下のとおりです。(申請内容の全文PDFはコチラ)
【請求項1】
商品アイデアの収集及び公開と、
公開した商品アイデアに係る商品の製造希望者との商談を
インターネットを介してウエブ・サイト上で行うことを特徴とするビジネス方法。
このビジネスモデル特許の申請に対して特許庁が通知した主な拒絶理由は次のとおりです。
(理由1)
請求項1乃至3の発明については、各ステップの動作の主体が明示されておら
ず、人間が動作を行うものをも含む記載となっているため、人間の精神活動に基
づいて行われる処理を含んでいる。又、請求項1乃至4の発明において、例えば
「商談をインターネットを介してウェブサイト上で行う」、「商品アイデア提案
者の委任を受けてウェブ管理者が行う」、「アイデアの公開は、・・・取り組み
状態を公開事項に含めて行う」、「公開と・・・、商談をインターネットを介し
て行うためのデータベース構造」等の記載は抽象的であり、ソフトウェアによる
情報処理をハードウェア資源を用いてどのように実現するのかが具体的ではない
。よって、請求項1乃至4の発明は自然法則を利用した技術的思想の創作とは認
められないので、特許法上の「発明」に該当しない。
(理由2)
1.例えば「商談をインターネットを介してウェブサイト上で行う」、「商談を
インターネットを介して行うためのデータベース構造」等のように、請求項には
課題そのものが記載されており、本願発明の課題を解決するための手段が記載さ
れておらず、本願発明の趣旨を超えて請求するものとなっている。
2.請求項の「ウェブサイト上で行う」、「取り組み状態」、「インターネット
を介して行うためのデータベース構造」とは技術的にどのようなものをさすのか
が不明であるため、発明が不明確である。
上に掲げた拒絶理由は、ビジネスモデル特許が拒絶されるパターンの典型例であるといえます。
つまり、
特許制度の保護対象が技術的な創意工夫(テクノロジー)に限定されているにもかかわらず、
多くのビジネスモデル特許の申請では、
人間の精神活動や人間の行動、つまり『ビジネス行為そのもの』を保護対象に含めており、
その結果、「特許法で保護される発明(=技術的なアイデア)に該当しない」といった理由で拒絶されています。
今回紹介した事例でいえば、上記の【請求項1】の記載において、
商品アイデアの『収集』や『公開』、製造希望者との『商談』といった行為が、
コンピュータ・プログラムによる処理などに関連付けれられておらず、
そのため、人間のビジネス行為そのものを特許申請していることになり、
明らかに拒絶される事由に該当するといえます。
ビジネスモデル特許とは、『コンピュータ・ソフトウェア関連発明』の俗称でありますから、
コンピュータを使った情報処理等に特徴を持たない単なる人為的な取り決めには、
特許権は付与されません。
したがって、ビジネスモデルの特許権を取得するにあたっては、
コンピュータによる情報処理やシステム構成などに斬新な特徴がある場合に限って特許権が付与される、
という点を十分に理解する必要があります。
本日もお読みいただいて有難うございました。
虎ノ門 富田国際特許事務所
Author Profile
- 国際弁理士事務所 代表弁理士
-
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。
【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団
【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など
【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。
【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」
【富田弁理士への問い合わせ先】
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
富田国際特許事務所
TEL:03-6205-4272 FAX: 03-3508-2095
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