もと従業員から商標権侵害の警告を受けた場合・・・

11.10


会社を退職した元従業員から「商標権侵害」の警告書が届いた場合…

 

弁理士の富田です。

 

業務を担当していた元従業員が、会社を退職した後、
その業務に係る商標(商品名やサービス名など)を無断で商標登録し、
さらに、その商標権に基づいて、会社に対して商標の使用中止を迫るケース。

 

会社としては、
その業務に係る主な商標(商品名、サービス名、店舗名など)について
商標登録しておくことで、こういったトラブルを未然に防止することができますが、

実際には、
商標制度の知識不足や、経済的事情などが原因で、
商標登録されていないことも多く、
会社がこういったトラブルに巻き込まれることも珍しくはありません。

 

今回は、前回に続いて、
「もと従業員から商標権侵害の警告を受けた」ケースにおいて
もと従業員であった者による商標登録を、公序良俗を害するおそれがある商標であるとして、
登録を取り消した事例(商標登録異議申立て)を紹介したいと思います。

 

【今回紹介する事例】
商標登録異議申立て 異議2001-90867

 

【異議の決定のポイント】
・商標権者は、申立人(会社)の元従業員であり、会社において、当該商標に係る業務の担当者であった

・商標権者(元従業員)は、会社を解雇された後、商標権を取得し、会社に対して商標の使用禁止を迫った。申立人(会社)は、その言動により、本件商標の出願および登録の事実を知った。

商標権者(元従業員)は、商標の『使用』について許諾を得ているが、商標権の『取得』についてまで、申立人(会社)の許諾を得ていない

・本件商標は、申立人(会社)の使用に係る商標と偶然に一致したものとは認め難いところであり、商標権者(元従業員)は、本件商標が申立人(会社)の業務に係るものであることを知って、申立人に無断で商標登録を受けたものといわざるを得ない。してみれば、商標権者(元従業員)のかかる行為によって登録された本件商標は、商取引の秩序を乱すおそれがあり、公の秩序を害するおそれがある。

 

以下、異議の決定の概要。

 

【異議申立番号】異議2001-90867

【事件の表示】
登録第4499261号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。

【結 論】
登録第4499261号商標の商標登録を取り消す。

 

【理 由】
1 本件商標
本件異議申立てに係る登録第4499261号商標(以下「本件商標」という。)は、「Shock Wave」の欧文字と「ショックウェイブ」の片仮名文字を二段に横書きしてなり、平成12年3月29日に登録出願、第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営に関する情報の提供,その他の映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営」等を指定役務として、平成13年8月17日に設定登録されたものである。

 

2 登録異議の申立ての理由
本件登録異議の申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第43条の3第2項の規定により、その登録は取消されるべきものであると申立て、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出している。

(1)本件商標の出願の経緯
申立人である株式会社音楽専科社(以下「音楽専科社」という。)が発行する音楽専門雑誌「SHOXX」は、ビジュアル・ハード・ロックの音楽専門雑誌の発行部数としては、国内で最大数を誇るものである。
雑誌「SHOXX」は、ビジュアル・ハード・ロックに関する記事を中心に掲載しており、また、「SHOCK WAVE」(以下「引用商標」という。)の名称を用いて演奏の興行を継続的に行っている。
商標権者は、この間、申立人である音楽専科社の従業員として、雑誌「SHOXX」の編集長を務めており(甲第4号証)、上記イベントが申立人を主体として運営されてきたことを熟知しているにもかかわらず、自己の名義で本件商標の出願を行い、登録を得たものであり、商標権者は別会社を設立してイベントを事業化する意図のもとに出願したと考えられる。
その後、商標権者は、平成13年5月に申立人の会社を解雇されており、商標権を取得した商標権者は、申立人に対し、イベント名として「SHOCK WAVE」の使用を禁止する旨の言動を取っている。申立人は、その言動により、本件商標の出願および登録の事実を知らされたものである。
さらに、申立人は本件商標の登録の存在を知った後に、商標権者に対し本件商標の返還を請求したが、交渉は不調に終わり、本件登録異議の申立てを行ったものである。

(2)申立人の業務名称としての「SHOCK WAVE」
申立人が開催する音楽のイベント「SHOCK WAVE」は、後毎年開催され、雑誌「SHOXX」誌上においても広く一般に告知されている(甲第3号証、甲第4号証)。
「SHOCK WAVE」のイベントの企画は、申立人である音楽専科社とその発行雑誌「SHOXX」が行っており、社告においても、「企画:SHOXX/音楽専科社」と表示されており(甲第3号証、甲第4号証)、商標権者は、音楽専科社の現実の担当者であった。
上述のとおり、「SHOCK WAVE」といえば、申立人である音楽専科社が開催するイベントに付された名称であると認識されるようになっている。

(3)商標法第4条第1項第7号に該当することについて
商標権者は、イベントの名称として著名性を獲得した申立人の引用商標を自己の名義で登録したもので、上記の関連から本件商標は公序良俗に反する商標といわざるを得ない。また、本件商標の登録が反社会性を有するものであることは、商標権者が申立人に対して、イベント名の使用を禁止しようとしていることによっても明らかである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。

 

3 当審が通知した取消理由
申立人である音楽専科社の提出に係る甲各号証によれば、申立人は、発行部数6万部のビジュアル・ハード・ロック系の音楽専門雑誌「SHOXX」を発行しており、この種の音楽専門雑誌における発行部数としては、国内で最大の発行部数を誇るものであること、また、申立人は、「SHOCK WAVE」(引用商標)の名称を用いて演奏の興行を継続的に行っており、雑誌「SHOXX」においてその紹介を行ってきたことを認めることができる。
そして、申立人の主張及び甲第3号証(「SHOXX」1999.11月号)及び同第4号証(「SHOXX」1999.12月号)によれば、商標権者は、この間、申立人の従業員として、雑誌「SHOXX」の編集長を務めており、また、上記イベントを進行させる立場にあったことが認められる。
しかして、本件商標は、申立人が行っている演奏の興行名称である「SHOCK WAVE」と大文字、小文字の差があるものの、同一綴りの欧文字及びその読みを表す片仮名文字からなるものであり、その役務についても、本件商標の指定役務には、申立人の業務に係る上記役務等と同一の役務を含むものである。
上記のような状況に照らしてみれば、本件商標は、申立人の使用に係る引用商標と偶然に一致したものとは認め難いところであり、商標権者は、本件商標が申立人の業務に係る引用商標と略同一の構成からなる商標であることを承知のうえ、申立人に無断で、申立人の業務に係る役務と同一の役務を含む役務を指定役務として、本件商標の商標登録出願をし、その登録を受けたものといわざるを得ない。
してみれば、商標権者のかかる行為によって登録された本件商標は、商取引の秩序を乱すおそれがあり、公の秩序を害するおそれのあるものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。

 

5 当審の判断
(1)引用商標「SHOCK WAVE」について
商標権者は、申立人の行うビジュアル・ハード・ロック系の音楽演奏(イベント)の興行を企画又は運営する役務について使用する引用商標と略同一の商標について登録を受けたものである。

(2)商標権者は、本件商標を登録出願し登録を受けたことに対し、新会社スターチャイルドがショックウエーブのイベントを引き継ぐものであること、新会社が申立人と業務提携してイベント業務、ケータイ配信事業に関し「SHOCK WAVE」タイトル(引用商標)を使用することについての許諾を受けている。また、音楽イベント「SHOCK WAVE」を引き継ぎその業務を安全に遂行するためには商標登録することは社会通念上当然のことであるとして、申立人である音楽専科社に無断で商標登録出願し登録を受けたものではない旨主張している。
しかしながら、商標権者は、「SHOCK WAVE」のタイトル(引用商標)の使用について申立人の許諾があったと主張しているに止まり、「SHOXX」に関連する無体財産権となる本件商標権の取得についてまで、音楽専科社(甲)の許諾を得ていたと認めることはできないものであり、その許諾があったことを証明する書面の提出はない。
してみれば、その商標権者の行為は、申立人音楽専科社の承諾を得て本件商標を登録出願し、商標権を得たものといえないので、上記商標権者の主張は採用できない。

(2)公序良俗に反した行為について
前項3の取消理由及び上記で述べたとおり、引用商標である「SHOCK WAVE」は、申立人のビジュアル・ハード・ロック系の音楽イベントのタイトルとして1996年以降使用した結果、「音楽専科社」及び「SHOXX」の企画する音楽イベントの興行を企画又は運営する商標(サービスマーク)として、その音楽の業界、ロック音楽の演奏者や愛好家等の間に知られていたものと推測されるものである。そして、引用商標を使用した「SHOCK WAVE」のイベントの企画者である申立人のイベントの担当者(編集長)としてイベントに関与していた商標権者が、申立人の音楽専科社退職後、不当に自己の新会社の業務を有利にし向け、申立人の当該業務を抑止するために、引用商標の登録がされていないことを奇貨として、申立人に無断で、引用商標と略同一の本件商標を、先取り的に商標登録出願し商標権を取得したものとみるのが相当である。
してみれば、商標権者が本件商標を商標登録出願し商標権を取得した行為は、公正な商取引の秩序を乱し、ひいては公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。

(3)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するにもかかわらず登録されたものと認められるので、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。

 

本日もお読みいただいて有難うございました。

虎ノ門 富田国際特許事務所

 

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Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ コンピュータハードウェア、ナビゲーションシステム、メカトロニクス、医療機器、内視鏡、ビジネスモデル、土木技術、掘削装置などの特許技術を担当。
■ 特許の権利化業務では、国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

【富田弁理士への問い合わせ先】
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