AI技術の特許性:進化する基準とその影響

AI技術の特許性:進化する基準とその影響

近年、人工知能(AI)技術、特に大規模言語モデルの応用が注目されています。
これらの技術は、顧客サービスからコンテンツ生成まで、幅広い分野での活用が進んでいます。
しかし、技術の進歩と共に、その特許性に関する議論も活発化しています。
特に、AIによる「業務の単純なシステム化」が特許の進歩性の判断にどのように影響を与えるかが問題となっています。

特許庁が公表した「AI関連技術に関する審査事例」では、
大規模言語モデルを用いたカスタマーセンター用回答自動生成装置の事例が紹介されています。
この事例は、AI技術を活用した発明が直面する進歩性の問題を浮き彫りにします。

下記は、特許庁が公表した「進歩性が否定される事例」の請求項となります。

【請求項1】
質問者による金融商品に関する問合せの質問文を受け付けて前記質問文に対する回答文を自動生成するカスタマーセンター用回答自動生成装置であって、
前記質問文を大規模言語モデルに入力することで、回答文を自動生成することを特徴とするカスタマーセンター用回答自動生成装置。

想定される特許庁の進歩性判断

【従来技術】
まず、従来技術として、「カスタマーセンターの担当者が、質問者による金融商品に関する問合せを受け付け、過去の問合せの事例が蓄積されたデータベースを検索して、前記質問文と合致する事例を参照して回答文を作成する点。」は、どこかの文献に記載または示唆されていることが容易に想定できます。

【慣用技術】
また、情報処理の技術分野において、人間が行っている業務を効率化するために、質問文を大規模言語モデルに入力し、その回答文を得ることは慣用技術であると考えられます。

【進歩性が否定される理由】
上記の従来技術と慣用技術を踏まえると、人間が行っている業務をコンピュータにより自動化することで効率化を図るべく、上記の慣用技術を従来技術に適用することで、「問合せの質問文を大規模言語モデルに入力することで、回答文を自動生成するカスタマーセンター用回答自動生成装置」とすることは、当業者であれば容易に想到することができたことである(すなわち進歩性が無い)、との結論に至るものと考えられます。

分析と展望

この事例から、AI技術を用いた発明が直面する主な課題の一つは、
既存技術や慣用技術の範囲内での改善や適用が、特許法上の進歩性の要件を満たさない可能性があることです。
このような状況は、AIの応用における特許戦略を検討する際に、発明者や特許申請者にとって重要な考慮事項となります。

進歩性の評価においては、単に技術を適用するだけではなく、
その適用が既知の解決策や慣用技術をどのように超越しているか、
また新たな問題をどのように解決しているかが鍵となります。

したがって、AI技術を用いた発明を特許出願する場合、
その技術がもたらす具体的な利益や、
解決する独自の問題について明確にすることが極めて重要です。

結論

AI技術の発展は、特許制度に新たな挑戦をもたらしています。
特に、生成AIのような先進技術を用いた発明の場合、進歩性の要件を満たすためには、
その技術の応用が従来技術をどのように超越しているかを明確に示す必要があります

このような分析は、AI技術の将来の発展とその法的保護の枠組みを理解する上で不可欠です。

本日もお読みいただき有難うございました。

富田国際特許事務所

 

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Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

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〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
富田国際特許事務所
TEL:03-6205-4272     FAX: 03-3508-2095
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