結論
AIを使った発明の請求項で、「AIで分析する」「評価する」のように、処理を大まかなひと言(総称)で書くだけで、具体的な中身(何を入れ、何を出すのか)を書かないと、審査で「どのように、何をするのか明確でない」と指摘されやすくなります。「質問とその回答に基づいて」のように、「〜に基づいて」とだけ書いた場合も同じです。質問と回答を、何に、どう使うのかが読み取れないからです。直し方は、AIに何を入れ、何が返り、それを何に使うかを、1ステップずつ書くことです。
前回の記事では「学習済みモデル」の書き方の型を取り上げました。今回は、実際に「明確でない」と指摘を受けてから特許になった2件の審査経過から、指摘の言葉と直し方を見ていきます。

実例1:「経営分析を行う」(特許第7835484号)
補助金の申請に使う事業計画書を、AIとのやり取りで作るシステムです。出願時の請求項には、次の記載がありました。
前記質問とその回答に基づいて前記学習モデルで経営分析を行う経営分析部
審査官の指摘(拒絶理由通知書)は、こうです。
どのように、どのような経営分析を行うのか明確でない。(…)経営分析を行うことが漠然と記載されているのみであって、明確といえない。
同じ通知書では、「前記学習モデルを用いて、前記ユーザ端末から前記質問の回答を取得し」という記載も、2通りに読めるとされました。利用者の質問をAIに入れてAIから回答を得るのか、AIを使って利用者に質問し、利用者から回答を得るのか。どちらかで、システムの技術的な意味が大きく変わる、という指摘です。「評価のスコア」も、どのように算出するのか明確でないとされました。
出願人は請求項を直し、特許になりました。直した後の請求項1は次のとおりです(一部)。
(…)公募要領に基づいて、前記事業計画書の各記載項目に対応する質問を生成し、チャットボット機能を介して前記ユーザ端末に提示し、前記ユーザ端末から入力された回答を受信し、当該回答および前記質問を学習モデルに入力して経営業績を分析する経営分析部
緑=AIへの入力 黄=指摘を受けた、中身が書かれていない部分
| 出願時 | 直した後 | |
|---|---|---|
| 質問 | (どこから来るか書いていない) | 公募要領に基づいて、記載項目ごとに生成 |
| 利用者とのやり取り | 「学習モデルを用いて、回答を取得し」 | チャットボットで提示し、利用者の端末から回答を受信 |
| AIへの入力 | (書いていない) | 回答と質問を学習モデルに入力 |
| スコア | 「評価のスコア」 | 「回答に対する成功事例の会話パターンに基づいて評価する会話スコア」 |
「分析する」という言葉は残っています。変わったのは、その前後の、データの受け渡しが書かれたことです。
実例2:「対話者を評価する」(特許第7853745号)
生成AIとの対話の途中で相手が抜けても、動画を記録して再開できるようにする、PeopleX社のプログラムです。出願時の請求項1は、次のとおりでした。
プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータを動作させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、
対話者と生成AIとの対話に係る動画を第1動画データとして記憶するステップと、
前記対話者が前記対話の途中で前記対話から離脱し、当該対話に復帰する場合、離脱時の質問テーマと関係する位置から当該対話を再開させるステップと、
再開後の当該対話に係る動画を第2動画データとして記憶するステップと、
を実行させるプログラム。
請求項1に続く請求項には、次の記載もありました。
(請求項9)前記関連付けるステップにおいて、前記対話者が離脱した時点で進行中であった前記質問テーマと前記第1動画データ上の再生位置との関連付けを無効化する、請求項8に記載のプログラム。
(請求項11)前記プロセッサに、前記第1動画データ及び前記第2動画データに基づいて前記対話者を評価するステップを実行させる、請求項1に記載のプログラム。
緑=AI 黄=審査で「明確でない」と指摘された部分
審査官は、「評価するステップ」について、次のように指摘しています。
当該ステップが果たすべき業務上の機能を抽象的に特定するに過ぎず、(…)これら動画データを具体的に如何なる技術的手段で如何に処理することで、どのような評価をするのか、その具体的な技術的処理手段が不明
「関連付けを無効化する」も同じく「業務上の機能を抽象的に特定するに過ぎず」とされました。「対話に係る動画」は、どんな動画が対話に「係る」のかが不明、「質問テーマと関係する位置」は、どの位置が質問テーマと関係するのかが明らかでない、と指摘されています。さらに請求項1全体について、「発明」にあたらない(特許法29条1項柱書)という指摘も受けています。
出願人は請求項を直し、特許になりました。特許になった請求項1は次のとおりです。
プロセッサと、メモリとを備えるコンピュータを動作させるためのプログラムであって、前記プログラムは、前記プロセッサに、
対話者と生成AIとの対話中の対話者を撮影した動画を第1動画データとして記憶するステップと、
前記対話者が前記対話の途中で前記対話から離脱したことを検知するステップと、
前記離脱の検知に応じて、再開の参照用の時点をマークするステップと、
前記対話者が前記対話に復帰したことを検知するステップと、
前記マークされた時点を参照して前記マークされた時点から当該対話を再開させるステップと、
再開後の前記対話者と前記生成AIとの対話中の前記対話者を撮影した動画を第2動画データとして記憶するステップと、
前記対話に含まれる質問テーマと、前記質問テーマが開始された前記第1動画データ上の再生位置又は前記第2動画データ上の再生位置とを関連付けるステップと、
前記対話者に関する情報と、前記第1動画データに対する指示入力オブジェクトと、前記第2動画データに対する指示入力オブジェクトと、前記第1動画データ上の再生位置又は第2動画データ上の再生位置と関連付けられた質問テーマと、を同一画面上で管理者に提示するステップと、
を実行させるプログラム。
緑=AI 黄=出願時の書き方から具体的に直した部分
| 出願時 | 特許になった請求項1 | |
|---|---|---|
| 記録する動画 | 「対話に係る動画」 | 「対話中の対話者を撮影した動画」 |
| どこから再開するか | 「離脱時の質問テーマと関係する位置から」 | 離脱を検知 → その時点をマーク → 復帰を検知 → マークした時点から再開 |
「関係する位置」という言い方をやめて、「離脱を検知したら、その時点に印を付け、戻ってきたら印の時点から再開する」という、コンピュータが行う処理の順番に置き換えたことがわかります。
2件に共通すること
どちらの指摘も、AIそのものではなく、AIの前後で何が起きるかが書かれていないことに向けられていました。「AI」や「学習モデル」という言葉が不明確とされたわけではありません。
| こう書くと指摘されやすい | こう書く(例) |
|---|---|
| AIで〇〇を分析する | 〇〇と△△を、□□の分析を指示する情報とともにAIに入力し、AIが出力した分析結果を取得する |
| 〜を評価する/スコア | どの情報を、どの基準で比べ、何を出力するか(例:成功事例との一致の度合いを数値で出す) |
| 〜に基づいて、〜に係る、〜と関係する | 何を参照して、何を特定するか(例:「マークした時点」) |
| AIを用いて〜を取得する | 誰が誰に何を渡し、何が返るかを、1ステップずつ |
表の「こう書く」の欄は、説明のための例です。
直せたのは、明細書に材料があったから
2件とも、補正の根拠として明細書の段落を示しています。実例1では、データの流れを順番に書いた段落(段落0066〜0068)が、そのまま請求項の書き直しに使われました。明細書に「誰が、何を、どこへ渡し、何が返るか」を書いた段落があったから、補正で救えたと考えられます。逆に、明細書に材料がなければ、補正すると新しい事項を加えることになり、直せません。
出願前の点検
- 「分析する」「評価する」「判定する」に、入力・基準・出力が添えてあるか
- 「AIを用いて〜を取得し」のように、受け渡しの向きが2通りに読める文がないか
- 「〜に基づいて」「〜に係る」「〜と関係する」だけで済ませていないか
- 明細書に、データの流れを1ステップずつ書いた段落があるか
まとめ
AIの発明で書くべきなのは、AIの中身よりも、AIの前後の受け渡しです。「分析する」「評価する」と書きたくなったら、その前に「何を入れるか」を、後に「何が返り、それを何に使うか」を書き足してください。それだけで、審査での「明確でない」はかなり防げます。
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Author Profile
- 国際弁理士事務所 代表弁理士
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■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。
【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団
【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など
【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。
【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」
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