弁理士の富田です。
さて、特許申請する場合には、その申請書類の『特許請求の範囲』の項目に、権利範囲として、
発明の構成(発明がどのようなエレメントから構成されているか)を特定する必要があります。
そして、装置や構造物などの『物』の発明の場合には、
特許請求の範囲に、通常、構造で特定された物(プロダクト)を記載することになります。
例えば、『部材Aと部材Bと部材Cで構成された装置X』といった感じで、特許申請するプロダクト(物)の権利範囲を特定します。
しかしながら、プロダクトの種類(例えば新規の医薬や金属材料)によっては、
構造解析が困難などの理由から、そのプロダクトの特徴を構造により特定することが難しい場合があり、
止むをえず、製造方法でプロダクトの特徴を特定することがあります。
例えば、『工程aと工程bと工程cにより生産される物質Y』といった書き方で、特許申請するプロダクトの権利範囲を特定します。
では、このように製法で特定されたプロダクトについて特許申請があった場合、
その新規性や進歩性などの特許要件は特許庁でどのように判断されるのでしょうか。
まず特許庁の審査基準によれば、
『工程aと工程bと工程cにより生産される物質Y』のように、製法でプロダクトを特定する書き方で権利範囲を記載しても、
その書き方自体が記載不備の拒絶理由(36条違反)を生じさせることはありません。
次に新規性・進歩性の判断についてですが、
例えば、物質Yを開示する公知文献が見つかった場合には、当該文献に開示の製造方法が請求項に記載の製法と異なるとしても、
『工程aと工程bと工程cにより生産される物質Y』は新規性が否定されることになります。
また例えば、別の公知文献に開示の物質Y’から物質Yが想到容易な場合(つまり物質Yと物質Y’が近似している場合)には、
その製法が異なっていても、『工程aと工程bと工程cにより生産される物質Y』は進歩性が否定されることになります。
このように、特許庁の取り扱いでは、物の発明の権利範囲を製法で特定するといった権利範囲の書き方を許容しているわけですが、
新規性・進歩性の判断では、主として、物の同一性・類似性が判断され、製法の違いは特許性の判断において考慮されないことに留意する必要があります。
次回からは『物』の発明を製法で特定した場合の権利解釈について解説したいと思います。
本日もお読みいただいて有難うございました。
虎ノ門 富田国際特許事務所
Author Profile
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■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。
【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団
【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など
【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。
【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」
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