従業員が完成させた発明の取り扱いを誤ると、企業にとって大きな損失を被るリスクがあります。
弁理士の富田です。
従業員が完成させた発明についての権利は、まずはじめに発明者である『従業員』に帰属します。
これは弁理士であれば当然に知っていることですが、
この原則に対する中小企業の理解は必ずしも浸透していません。
そのため、いまだに多くの中小企業では、
従業員が完成させた発明について、従業員と会社側との間で明確な取り決めがないまま、
当然の如く『企業名義』で特許申請しているといった状況にあります。
ところが、青色発光ダイオード事件などがきっかけとなって、
近年では、従業員の知的財産に関する権利意識は益々高まってきており、
権利の帰属を巡って『元従業員』と『会社』との間でトラブルに発展するケースが増えつつあります。
では、従業員が完成させた発明について、
会社側が、譲渡等の手続きや取り決めを経ずに、会社名義で特許権を取得した場合、
具体的にどのようなことが起こり得るのでしょうか。
まず、正当権利を有しない者による特許申請(いわゆる冒認出願)であるとして、
元従業員から、特許無効審判を請求される可能性があります。
また、会社側に対して当該発明に関する権利を譲渡した覚えはないとして、
元従業員から、自分が特許権の権利者であることの確認の訴えを請求される可能性があります。
さらに、上記の確認の訴えが認められれば、
会社側は、当該特許権を元従業員側に移転しなければなりません。
そして、その特許権が企業に帰属しないということになれば、
会社側はその特許発明で得たライセンス収入などを従業員に不当利得として
返還しなければなりません。
さらにまた、会社側は特許権を失う結果、原則として、
その発明の実施を継続できなくなる可能性が生じます(職務発明の場合を除く)。
このように、従業員が完成させた発明の取り扱い(特に権利の譲渡に関する取り決め)を疎かにすると、
企業にとって将来的に大きなリスクを抱えることになるので、
中小企業の経営者はその取扱いについては十分に注意する必要があります。
本日もお読みいただいて有難うございました。
虎ノ門 富田国際特許事務所
Author Profile
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■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。
【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団
【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など
【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。
【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」
【富田弁理士への問い合わせ先】
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富田国際特許事務所
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