特許出願の補正に関する注意点。将来の分割(分割特許出願)に備えて。
弁理士の富田です。
特許出願の分割とは、
特許申請書類に記載した発明の一部を抜き出して、
新たに特許出願することをいいます。
特許出願後に申請する新たな特許出願であるにもかかわらず、
もとの出願の申請日に遡ることができるといった時間的メリットがあります。
例えば、特許出願の日から5年経過後に分割出願(=新たな出願)した場合でも、
この新たな特許出願は、5年前の原出願日に遡ることができます。
これが分割出願の最大のメリットです。
現在の法律では、上述した分割特許出願を、『特許査定後』に行うことができます。
つまり、特許庁から特許の許可が通知されたときに、所定期間内に、
その特許出願の一部(別発明)を抜き出して、新たに分割特許出願を行うことができるのです。
例えば、ビジネスモデル特許に関する情報処理システムについて特許査定が通知された後に、
そのシステムに利用する専用アプリについて分割特許出願することで、
当該アプリについても、高い確率での権利化が期待できます。
ですから、この出願の分割というのは、周辺技術を戦略的に権利化するにあたって極めて有効な手段といえます。
ただし、この特許査定後の分割特許出願を行うにあたっては、
それまでに行う『補正』に関して注意すべき点があります。
特許査定後の所定期間内に行う分割特許出願の内容は、
元の特許出願の出願時明細書等に記載されているだけでは足りず、
分割直前の明細書等(つまり特許査定時の明細書等)にも記載されている必要があります。
そうすると、もとの特許出願が特許査定されるまでの間に補正により削除した内容は、
特許査定時の特許明細書等には記載されていないことになりますから、
特許査定の時点で削除されている内容について分割出願しても、分割の効果(もとの出願時に遡るという時間的メリット)を享受することができません。
機械系やIT系の特許出願では、通常、補正時において明細書等の記載内容を削除することはありませんが、
化学系の特許出願、特に組成や含有量に特徴がある発明については、拒絶理由通知に対する補正時に、(審査官等の誘導に従ってうっかりと)本願発明に対応する実施例を明細書から削除することがあります。
しかしながら、将来、分割出願を想定している場合には、当該実施例を削除することなく、
参考例などとして明細書中にその記載を形式的に残しておくことが極めて重要となります。
したがって、将来、特許出願の分割、特に、特許査定後の分割出願が想定される場合には、
補正時において重要な記載(分割により抜き出す内容等)を削除しないように十分に注意する必要があるといえます。
本日もお読みいただいて有難うございました。
虎ノ門 富田国際特許事務所
Author Profile
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■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。
【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団
【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など
【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。
【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」
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