『切削用鋼管杭』について新規事項追加違反が争われた事例

『切削用鋼管杭』について新規事項追加違反を争った事例

弁理士の富田です。

今日はかなりマニアックな話です。
土木分野の特許に興味のない方、たいへん申し訳ございません。

 

さて、特許申請の手続きでは、
特許庁に提出した時点での申請書類(つまり出願時明細書等)に記載してない事項は、
その後の補正手続きにおいて書き加えることができません。

 

しかしながら、
申請時に想定していなかった従来技術に基づいて特許が拒絶されると、
やむを得ず、出願時明細書等に明示的に(形式的に)記載してなかった事項を、
明細書に書き加えることを検討することがあります。

 

特許4105076号(護岸の連続構築方法)の特許無効審判事件では、
特許登録前の補正手続きで書き加えられた『切削用鋼管杭』が、
出願時明細書等に明示的に記載されていなかったため、
当該特許権を無効にすべきものとして無効審判が請求されました。

 

当該特許の請求項1は、下記のとおりです。
下線部が新規事項追加違反について争われた箇所となります。(全文PDFはコチラ

【請求項1】
A 鋼管杭を回転圧入できる鋼管杭圧入装置を用いて、
B 先端にビットを備えた切削用鋼管杭
C コンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し、
D この鋼管杭列から反力を得ながら、
E 上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート
護岸を打ち抜いて連続壁を構築し、
F その後、上記鋼管杭列の河川側のコンクリート護岸と土砂を除去する護 岸の連続構築方法。

 

上記の下線部に係る補正事項について、
無効審判請求人は、次のとおりに主張し、
特許の無効処分を求めました。

平成19年12月25日付けの手続補正書によって,請求項1について「先端にビットを備えた切削用鋼管杭をコンクリート護岸を打ち抜いて圧入して鋼管杭列を構築し,」及び「上記鋼管杭列に連続して上記切削用鋼管杭を回転圧入してコンクリート護岸を打ち抜いて連続壁を構築し、」なる補正が行われたが,当初明細書等には,「掘削用鋼管杭」との記載はあるが,「切削用鋼管杭」は記載されていない。そして,「切削」と「掘削」は概念的に区別されるべきものであるから,当該補正は,当初明細書等に記載した事項の範囲においてしたものではなく,上記手続補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって,本件発明に係る特許は,特許法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

 

 

この無効審判請求に対し、特許庁は、次の通りに結論付けました。

請求項1に記載された「切削用鋼管杭」は,当初明細書に記載の「先端にビットを備えた掘削用鋼管杭」を,コンクリート護岸に適用された時の作用に基いて「切削用鋼管杭」と表現したものであることは明らかであり,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである

 

したがって、特許申請における補正手続きにおいて、新たに書き加えることができる事項は、
・申請時の書類に明示的に記載されている事項のほか、
・申請時の書類のすべてを総合判断することで当然に導くことができる事項も
含まれているといえます。

 

ただし、権利化後の無用の争い(上記のような無効審判など)を避けるためにも、
特許申請における補正の手続きでは、形式的にも・実質的にも(判断が分かれるようなケースも含め)、
新規事項の追加は避けるべきといえます。
それゆえ、特許申請時の書類には、多少表現が冗長となることがあっても、
1つの特徴を切り口を変えて言い換えることが得策といえるでしょう。

 

本日もお読みいただいて有難うございました。
虎ノ門 富田国際特許事務所

 

contact03

 

Author Profile

富田 款国際弁理士事務所 代表弁理士
■ 1997年より国際弁理士事務所にて、主に、米国・欧州・日本における知的財産権業務に従事。
■ 国内および外国のオフィシャル・アクションへの対応、外国法律事務所へのインストラクションなどを担当。また、米国やドイツのクライアントからの日本向け特許出願の権利化業務を担当。特許の権利化業務のほか、特許権侵害訴訟や特許無効審判、特許異議申立、口頭審理対応、侵害鑑定の業務も担当。訴訟業務では、特許権侵害訴訟のほか、特許無効審判の審決取り消し訴訟を経験。

【所属団体】 日本弁理士会,日弁連 法務研究財団

【専門分野】 特許、商標、意匠、不正競争防止法、侵害訴訟など

【技術分野】 機械、制御、IoT関連、メカトロニクス、金属材料、金属加工、建築土木技術、コンピュータ、ソフトウェア、プラント、歯科医療機器、インプラント、プロダクトデザイン、ビジネスモデル特許など。

【その他の活動】
■ 2013.09.17 セミナー講師: 東京メトロポリタン・ビジネス倶楽部 「職務発明の取り扱い」
■ 2014.04.19 テレビ出演: テレビ朝日 「みんなの疑問 ニュースなぜ太郎」

【富田弁理士への問い合わせ先】
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-16-9 双葉ビル5F
富田国際特許事務所
TEL:03-6205-4272     FAX: 03-3508-2095
※ 富田弁理士へのEMAILはコチラのメールフォームよりお願いいたします。

Firm Profile

【企業名】富田国際特許事務所

 

【代表者】弁理士 富田 款

 

【所在地】〒105-0001
東京都港区虎ノ門 1-16-9 双葉ビル5F

 

【連絡先】
TEL:03-6205-4272 FAX:03-3508-2095
※弁理士 富田に直通です。

Calendar

2013年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

Popular Articles

  1. 1

    他人の特許公報(明細書や図面など)をコピペする行為

  2. 2

    自分の出願を『閲覧請求』したのは誰なのか

  3. 3

    AI関連技術における特許取得の進歩性判断基準についての考察

  4. 4

    出願書類の『閲覧請求』と『交付請求』の違いとは・・・

  5. 5

    特許公報や商標公報などの登録公報、いつ発行されるのか?

関連記事